デヴィッド・ボウイ生誕70周年と没後1周年によせて
誕生日と命日が同じ人物といえば、六代目三遊亭圓生が真っ先に思い付く。
1900年9月3日生誕。1979年9月3日逝去。ちなみに、翌9月4日朝刊のトップ記事は圓生逝去ではなく、上野動物園のパンダが死んだ話題だったそうだ。
昭和の大名人といえども、当時は飛ぶ鳥を落とす勢いだったパンダにはかなわないという「オチ」を付けて死んだわけで、圓生本人にそのような意志はなかったに決まっているけれど、図らずも死に様まで芸のひとつにしてしまうとは、お釈迦様でも知らぬ仏のなんとやら、である。
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そんなことをぼんやりと考えていた昨日(2017年1月9日)の夜。
iPhoneでNHKラジオのアプリを起動したところ、幾度も繰り返し聴いた曲が流れてきた。
Space Oddity。
デヴィッド・ボウイの初期キャリアを代表する楽曲である。
どうやら「今日は一日デヴィッド・ボウイ三昧」という番組だったらしい。「アニソン三昧」「プログレ三昧」でおなじみ、NHK-FMの名物企画「今日は一日◯◯三昧」の一環だ。
そう。(1947年)1月8日はデヴィッド・ボウイの誕生日で、(2016年)1月10日は命日。その辺りを勘案した企画であることは明白だった。
三遊亭圓生ほどではないにせよ、誕生日と命日がこれほど接近していると、忘れようにも忘れられない。今までのリスナー歴でもトップを争うほど好きなミュージシャンなら、なおさらだ。
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私のようなデヴィッド・ボウイ愛好家にとっての2016年初頭は、天国から地獄に突き落とされるような目まぐるしいものだったと思う。
1月8日にその誕生日と極めて冒険心に溢れた新譜の発売を祝い、そのわずか2日後に訃報を聴かされ、埋めることのできない喪失感を味わった。
遺作となった『★(BlackStar)』は、実に前衛的で冒険心に溢れた意欲作だった。
2015年の年末にYouTubeで公開された表題曲(上記動画)を視聴した時は言葉を失ったものだ。だって、あまりにもキレッキレで、攻めまくっていたから。もう少しで齢70に達しようとする人物が作ったものとはとても思えないほどの現役感に溢れていたから。
友人に向かって『今回のボウイは超攻めてるぞ!』と興奮しながら語ったことを覚えている。
『★』は彼の遺作ということもあり、各国で大きなセールスを挙げた。
内容は決してポピュラーなものではない。テイラー・スウィフトやジャスティン・ビーバーを好んで聴く層にとってはかなり難解な作品であるといっても過言ではないだろう。
だから、『★』が彼の逝去を受けてとりあえず買ってみたリスナーにとって面食らう作品であったことは想像に難くない。「Starman」や「Let's Dance」の印象が強いリスナーの頭上に、クエスチョンマークの羅列を浮かばせるには十分な意欲作だった。
私にはそれが、実に痛快でたまらないのだ。
キャリアの最期に強烈なインパクトを残し、リスナーの頭のなかを引っ掻き回して去っていった。アーティストの去り際はかくあるべきという、最良のモデルを残した。
彼以上にアーティスト然とした最期を遂げるミュージシャンは、今後現れるのだろうか。
(ジャンル違いだが、藤子・F・不二雄氏の最期に対しては尊敬の念を禁じ得ない)
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ミュージシャンとして、またアーティストとして、見事ともいえる散り際を見せたデヴィッド・ボウイ。
もちろん、一個人たるデヴィッド・ロバート・ジョーンズ氏の細かいパーソナリティまでは知り得ない(晩年の彼は落ち着いていて、なおかつエネルギッシュで、優しく、ユーモアに溢れた紳士だったらしい)けれど、音楽というものは、ミュージシャンにとってのパーソナルが如実に反映されるツールだ。
ジギー・スターダストやシン・ホワイト・デュークといったペルソナを通していたとはいえ、彼の表現にはウソはなかった。
私たちは彼の音楽から、デヴィッド・ボウイことデヴィッド・ロバート・ジョーンズのパーソナリティに触れていたのだ、間違いなく。
だから、一切面識のない、雲の上の人物であるところの彼の死がこんなにも悲しく、彼の不在がこんなにも寂しいことには何の不思議もない。至極当然のことだ。
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ブラックホールが星の成れの果てであることは、読者諸兄もご存知のことだろう。
死にゆく星が巨星であればあるほど、ブラックホールを生成する確率が高いという。
光も質量もことごとく取り込んで、そこだけは静か。
デヴィッド・ボウイは間違いなく巨星だった。
デヴィッド・ロバート・ジョーンズ青年がデヴィッド・ボウイと名を変えてから、その命が尽きるまでスターであり続けた、類まれな人物だ。
だから、一年経とうが二年経とうが、あなたや私の心にぽっかり空いた穴は埋まりはしないのだ。
彼の遺作のタイトルが『★(BlackStar)』だなんて、タチの悪い冗談みたいだ。
世界中のボウイ・ファンがその心身に埋められない空洞を抱えることになるとあらかじめ知っていて、こんなタイトルにしたのか? ああ、憎たらしい。
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今日は2017年1月10日。
デヴィッド・ボウイが旅立ってからちょうど1年。
彼の不在は、埋めようがない大きながらんどうであり続ける。
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